ゆらゆらと揺れる
ゆらゆらと
穏やかな波間に漂うように
ゆらゆらと暖かく
柔らかな潮
気を許せばすぐに眠れるだろう
心地良く安らかで和やかだ
だから眠りに就くべき筈なのだ
心赴くままに心が満ちるままに
まどろんでいよう
死者が如く眠ろう
――だが
それは許されることか
静寂を破る一滴の雫
水面に広がる小さな波紋
にわかに胸の奥がざわめきたつ
鉛でも詰めたように鈍い脳髄が
波ひとつない碧海のように透き通る
覚醒する意識につられ目蓋が押し上げられる
膨大な暗闇と僅かに差す光明
その境目に彼女はたたずんでいる
まどろむ前と変わらぬ景色だ
まだ君と言葉を交わせるだろうか?
問い掛けに返事はない
声はない
決してない
ただ頬を伝うそれが
ただ腕を伝うそれが
穏やかな波間を乱しているだけだ
雫滴る音
どうして――君は泣いている?
問い掛けに答えは与えられず
そのことにじりじりと胸が焼ける
涙から生まれた波紋が
小さく揺れてこの身に寄せる
微かな震えが体に響き
身を引き裂いて背中に抜ける
泣くなよ――どうして泣いている?
どうして――君が悲しまなきゃいけない?
嘆いたところで涙は止まらず
一定のリズムで時を刻む
飽くなき水の音に耳慣れた頃
不意に意識が溶け始めた
眠いのとは少し違う
意識を根こそぎ引き抜かれる
意識は――醒めなければならない
薄らぎゆく視界は最後に少女の瞳を捉える
その瞳に浮かぶ色が心に捻じ込まれる
なぜだ?
思わずそんな言葉が口を衝いて出た
どうしてそんな目で俺を見る?
これから君と別れるのは
君を悲しませるためではないのに